Haloarcula japonica strain TR-1

 高度好塩菌とは「高い塩濃度の環境下でしか生きられない」細菌のことです。どれぐらい高い濃度かというと、 なんと20~25%、ほとんど飽和食塩水に近い環境です。海水でもせいぜい2~3%ですから、いかにものすごい環境 であることがおわかり頂けると思います。地球上にはこのような環境が、イスラエルの死海のような塩湖、南米高地 の塩平原や、塩田等にあり、これら好塩菌もこのようなところで見出されます。たまに塩漬けにした魚等で生育し、 この魚等を真っ赤に染めてしまったりもします。

Haloarcula japonica strain TR-1の電子顕微鏡写真

電子顕微鏡

 高度好塩菌はいわゆる「古細菌」のグループの1つです。古細菌は、核を持つ真核生物や、核のない、普通にいう ところの細菌である真正細菌とも異なる「第三の生物群」であり、太古の昔に他の生物群より分離、生存してきた一群で す。古細菌はいずれも普通なら考えられないような、特殊な環境で生き延びてきており、高度好塩菌のほかにもメタン を合成するメタン菌、85℃以上という高温の環境下で生育する超好熱菌などがあります。

 現在我々が研究している、高度好塩菌 Haloarcula japonica TR-1株は、1980年代後半に石川県能登半島の塩田で発見された古細菌です。Haloarcula japonica TR-1株は三角形の形をしており、「三角菌」と呼ばれています。細胞の形というのは一 般に細胞内骨格や細胞壁によって支えられて出来ています。この三角菌はそれとは違い、表面に細胞表層糖タンパク質 CSG という糖タンパク質を大量に作ることによって三角形平板状という珍しい形を作っています。この菌は通常生きている環境である 20% NaCl、4% 硫酸マグネシウムという条件下では CSG が細胞膜にくっついているので三角形を保っていられますが、Mg2+イオンを除くと CSG がはずれて、菌は球状になってしまいます。この CSG は菌の表面をべったり包むほどに大量に作られているので、CSG の代わりに他のタンパク質を大量に合成させるなどの応用が考えられます。また、この他に三角菌のつくるフェレドキシンやバクテリオロドプシン様タンパク質の性質の研究なども行っています。

Haloarcula japonica TR-1株のAFMイメージ

AFM1

EDTAを添加してMg2+を 取り除くと

AFM2