カロテノイド

 カロテノイドは、様々な生物がもつ天然の色素の一群で、黄・赤・紫色などを示します。代表的な物質として、トマトに含まれるリコペン、ニンジンに含まれる β-カロテンなどが挙げられます。カロテノイドは長い共役二重結合をもつため (Fig. 1)、抗酸化能やラジカル消去能が高く、X 線や紫外線などの強力な光照射や、過酸化水素による酸化的 DNA 損傷から細胞を保護する機能があると言われています。

Fig. 1 BRの構造

 Haloarcula japonica は高塩濃度下で生育する高度好塩性古細菌であり、そのコロニーは赤色を呈します (Fig. 2)。これは Ha. japonica がカロテノイドを生産するためです。これまでに本研究室では、Ha. japonica が炭素数 50 のカロテノイドであるバクテリオルベリン (BR、Fig. 1) を生産することを明らかにしました [1]。また、その生合成経路のうち、フィトエンから BR までの生合成に関与する遺伝子を全て同定しました [2]。

 高度好塩性古細菌が生産する BR は、その末端に親水性のヒドロキシ基が存在することから、細胞膜に入り込んでいると考えられています。そして、膜の力学的強度を向上させることで、微生物の耐塩性に寄与している可能性があります。そこで、BR の生産と膜の強度、さらに微生物の耐塩性との関連を調べる研究を行っています。将来的に、BR を他種微生物に生産させることで、それまで生育できなかった高い塩濃度環境でも生育する新しい株の取得が可能になるかもしれません。

Fig. 2 Ha. japonica のコロニー


[投稿論文]
[1] R. Yatsunami, A. Ando, Y. Yang, S. Takaichi, M. Kohno, Y. Matsumura, H. Ikeda, T. Fukui, K. Nakasone, N. Fujita, M. Sekine, T. Takashina, and S. Nakamura, “Identification of carotenoids from the extremely halophilic archaeon Haloarcula japonicaFront. Microbiol., 5, 100-105 (2014).

[2] Yang Y, Yatsunami R, Ando A, Miyoko N, Fukui T, Takaichi S, Nakamura S. Complete biosynthetic pathway of the C50 carotenoid bacterioruberin from lycopene in the extremely halophilic archaeon Haloarcula japonica. J. Bacteriol. 197(9), 1614-1623 (2015).