超好熱性細菌 Thermotoga maritima 由来キシラナーゼ XynTB

 キシラナーゼは植物の細胞壁の成分である多糖類、キシランの β-1,4 結合を切断する酵素です (Fig. 1)。キシラナーゼは様々な産業分野への応用の可能性を有しています。例えば、キシランにキシラナーゼを作用させることで、整腸作用や保湿作用を有するキシロオリゴ糖が生産されます。また、家畜の飼料となる穀物をキシラナーゼで処理することにより、体内での分解性および栄養価を高めることができます。農産あるいは工業廃棄物をキシラナーゼによって糖化し、有用物質へと変換することも可能です。このような陸上植物バイオマスの有効利用は、持続可能な資源供給のため今後ますます重要になると考えられます。

Fig.1 β-1,4-キシランの主構造およびキシラナーゼによる加水分解部位


 一般にキシランは高温・アルカリ性条件下で水溶性が増し、酵素によって処理しやすくなります。したがって、キシラナーゼの実用化においては、高温・アルカリ性条件下で高い活性を示すキシラナーゼが望まれています。このような要求に応えるために、本研究室では高温で生息する極限環境微生物が持つキシラナーゼの研究を行なってきました。 Thermotoga maritima は、イタリアの海底堆積土より発見された細菌で、80℃ 以上の高温でも生育できる"超好熱菌"です。超好熱菌が生産する酵素は高温で高い活性を示すことから、本研究室では T. maritima 由来キシラナーゼ (XynTB) に着目して研究を進めています。これまでに、XynTB の X 線結晶構造が決定され [1]、構造生物学的なアプローチも可能になっています。また進化分子工学的手法を用いて、高温条件、もしくはアルカリ性条件でより高いキシラン加水分解活性を示す変異型 XynTBの取得も行なってきました [2, 3]。高温・アルカリ性条件下でさらに高い加水分解活性を示すキシラナーゼを得るために研究を続けています。

Fig.2 XynTB の結晶構造 (PDB ID: 1VBU)


[参考文献]
[1] Ihsanawati, T. Kumasaka, T. Kaneko, C. Morokuma, S. Nakamura and N. Tanaka, Crystallization and preliminary X-ray studies of xylanase 10B from Thermotoga maritima, Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr., 59, 1659-1661 (2003).
[2] Ihsanawati, T. Kumasaka, T. Kaneko, C. Morokuma, R. Yatsunami, T. Sato, S. Nakamura and N. Tanaka, Structural basis of the substrate subsite and the highly thermal stability of xylanase 10B from Thermotoga maritima MSB8, Proteins, 61(4), 999-1009 (2005).
[3] W. Tsukimura, K. Watanabe, C. Morokuma, R. Yatsunami, T. Fukui, and S. Nakamura, Improvement of alkaliphily of thermostable GH family 10 xylanase from Thermotoga maritima by directed evolution, J. Jpn. Soc. Extremophiles, 9(1), 15-18 (2010).